介護老人保健施設のBCPを事業所の実態へ合わせる作り方
介護老人保健施設(老健)のBCPは、2025年4月1日から未策定減算が適用されており、施設系サービスは所定単位数の100分の3に相当する単位数が減算されます。「ひな形をそのまま提出すれば終わり」と考えると、指定権者への届出内容と実態が乖離し、減算リスクが残る場合があります。この記事では、老健の現場条件に合わせたBCPの作り方を、法令の根拠とともに整理します。
BCPの全体像については介護事業所のBCP完全ガイドもあわせてご参照ください。
1. 老健がBCPを作らないと何が起きるか
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」に基づき、BCP策定は2024年度介護報酬改定で義務化されました。未策定減算の経過措置は2025年3月31日で終了し、2025年4月1日から減算が適用されています。
老健は施設・居住系サービスに分類されるため、所定単位数の100分の3に相当する単位数が減算されます(出典:厚労省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」p.49)。
減算を避けるには、BCPを策定したうえで指定権者へ体制届等を「基準型」として届け出る必要があります。未届・記載不備があると減算型として扱われるおそれがあるため、届出様式は指定権者(都道府県または市区町村)のサイトで確認してください。
2. 老健のBCPに求められる2種類の計画
老健のBCPは、運営基準上、次の2種類を別々に策定する必要があります。
| 種類 | 主な想定リスク |
|---|---|
| 自然災害BCP | 地震・水害・台風など |
| 感染症BCP | 新型インフルエンザ・ノロウイルスなど |
どちらも「策定→研修→訓練→見直し」のサイクルが求められます。施設系サービス(老健を含む)の研修・訓練の実施頻度は、解釈通知(老企第25号)および実務基準として年2回以上とされています。
見直し頻度については、運営基準(平成11年厚生省令第37号第30条の2等)は「定期的に見直しを行い、必要に応じて変更する」と定めるのみで、法令上の具体的な回数義務は確認されていません。実務上は、訓練後の振り返りや組織変更・設備更新のタイミングで随時見直すことが望ましいと考えられます。
3. 老健の現場条件を踏まえたBCPの作り方
ステップ1:リスクアセスメント(施設固有の条件を洗い出す)
老健は入所・通所・訪問リハビリを複合的に提供する施設です。BCPを作る際は、次の施設固有の条件を最初に整理します。
- 建物・立地条件:ハザードマップ上の浸水想定区域・土砂災害警戒区域の該当有無、建物の耐震基準(新耐震・旧耐震)
- 入所者の医療依存度:経管栄養・吸引・インスリン投与が必要な入所者の人数と対応手順
- 医療機器・設備:停電時に影響を受ける機器(吸引器・酸素濃縮器等)のリストと代替手段
- 協力医療機関・協定先:災害時の搬送先・受け入れ先の確認状況
- 職員の通勤手段と居住エリア:公共交通機関が止まった場合の参集可能人数の想定
ひな形のリスク欄に「地震・火災・感染症」と書くだけでは、実態と乖離します。上記の条件を施設ごとに数値や固有名詞で埋めることが、実効性のあるBCPの出発点です。
ステップ2:優先業務の特定
老健のBCPで最初に決めるべきは「災害・感染症発生時に継続しなければならない業務」の優先順位です。
想定例(架空の施設を前提とした例示です):
- 優先度A(停止不可):入所者の安全確保・医療処置・食事・排泄介助
- 優先度B(縮小可):通所リハビリ・家族への連絡対応
- 優先度C(一時停止可):書類整理・会議・研修
優先度の設定は施設の規模・入所者構成・職員体制によって異なります。「他施設と同じ優先順位でよい」という前提は避け、自施設の入所者像に合わせて設定してください。
ステップ3:対応手順の文書化
優先業務が決まったら、各業務の「誰が・何を・どの順番で行うか」を文書化します。老健で特に記載が必要な項目を以下に示します。
自然災害BCP
- 初動対応の指揮命令系統(管理者不在時の代行者を明記)
- 入所者の垂直避難・水平避難の判断基準と手順
- 非常用電源の起動手順と燃料備蓄の確認方法
- 食料・飲料水・医薬品の備蓄量と補充ルート
- 行政・協力医療機関・家族への連絡手順と連絡先一覧
感染症BCP
- 感染疑い者発生時の隔離手順と個室確保の優先順位
- ゾーニング(清潔区域・汚染区域)の設定方法
- PPE(個人防護具)の在庫管理と補充ルート
- 職員の健康管理・出勤停止基準
- 保健所・協力医療機関への報告手順
ステップ4:研修・訓練の計画と記録
老健では研修・訓練を年2回以上実施し、その記録を保存する必要があります。訓練は「机上訓練(シナリオを読み合わせる)」と「実地訓練(実際に動いて確認する)」を組み合わせると、手順の抜け漏れを発見しやすくなります。
記録に残すべき内容:
- 実施日・参加者・訓練内容
- 訓練で発見した課題
- 課題への対応策と担当者・期限
この記録は、指定権者の実地指導で確認される場合があります。
ステップ5:見直しと更新
運営基準は「定期的に見直しを行い、必要に応じて変更する」と定めています。見直しのタイミングとして実務上考えられる例を示します。
- 訓練後の振り返り時
- 職員の大幅な入れ替えや組織変更時
- 設備・建物の改修時
- 協力医療機関・協定先の変更時
- 地域のハザードマップ更新時
4. 老健のBCP作成でよくある失敗例
失敗例1:ひな形の空欄を埋めただけで届出した
厚労省や都道府県が公開するひな形は、あくまで記載項目の参考です。施設名・担当者名・連絡先だけを書き換えて提出した場合、実地指導で「実態と乖離している」と指摘される場合があります。
失敗例2:自然災害BCPと感染症BCPを混在させた
2種類のBCPを1つの文書にまとめる際、対応手順が混在して「どちらの場合の手順か」が不明確になるケースがあります。章立てや表紙で明確に区別することを検討してください。
失敗例3:研修・訓練の記録を残していなかった
BCPを策定していても、研修・訓練の実施記録がなければ「実施した」と証明しにくい状況になります。簡易な様式でも記録を残す習慣をつけることが重要です。
失敗例4:指定権者への届出を忘れた
BCPを策定しても、指定権者への体制届等の提出が漏れると、減算型として扱われるおそれがあります。届出様式・提出先・提出期限は指定権者(都道府県または市区町村)により異なるため、必ず所轄の指定権者サイトで確認してください。
5. トドケデ介護でBCPを無料作成
老健のBCP作成は、施設固有の条件を丁寧に拾い上げる作業が中心です。「どこから手をつければよいかわからない」「ひな形を自施設に合わせる時間がない」という場合は、トドケデ介護の無料BCP作成サービスをご活用ください。
自施設の状況が減算対象に該当するかどうかは、簡易診断フォームからご確認いただけます。
また、丸岡 峻のプロフィールや対応実績については著者ページをご覧ください。
まとめ
- 老健は施設系サービスとして、BCP未策定の場合に所定単位数の100分の3の減算が2025年4月1日から適用されています。
- BCPは自然災害・感染症の2種類を別々に策定し、施設固有の条件(入所者の医療依存度・設備・立地等)を具体的に記載することが重要です。
- 研修・訓練は年2回以上の実施と記録保存が求められます。
- 見直し頻度の具体的な回数は法令上定められていませんが、訓練後や組織変更時など定期的な更新が求められます。
- 指定権者への届出様式・提出先は自治体により異なるため、所轄の指定権者サイトで確認してください。
著者:丸岡 峻
元京都市消防局13年・現役防災士(日本防災士機構認定)・消防設備士・危険物取扱者
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。BCP策定・届出に関する具体的な判断は、所轄の指定権者または専門家にご相談ください。