介護老人保健施設のBCPは、入所生活を維持する計画だけでは不十分です。医療ケア、看護、介護、リハビリ、栄養、薬、入退所調整、在宅復帰支援が同時に動いています。感染症や自然災害で一部業務を縮小するときも、利用者の状態悪化を防ぎながら、家族、医療機関、居宅支援、行政との連絡を続ける必要があります。

結論として、老健のBCPでは「施設を開けるか閉めるか」ではなく、業務を利用者の生命・健康への影響で並べ、継続、縮小、延期、代替へ分けます。部門ごとの計画を寄せ集めるのではなく、一人の利用者に対して看護、介護、リハビリ、栄養、相談員が持つ情報を同じ優先順位表へ統合します。

老健の業務を利用者単位で分解する

最初に、入所、短期入所、通所、訪問的な支援など施設で提供しているサービスを整理します。次に、食事、排泄、服薬、処置、移動、認知症ケア、リハビリ、家族連絡、受診、退所支援を一覧にし、停止した場合の影響と代替方法を記載します。

想定例として、リハビリ室が使えなくても訓練をすべて中止するのではなく、居室や生活場面で継続する項目、延期できる評価、職種変更では代替できない専門対応を分けます。計画書に「リハビリを縮小」とだけ書かず、誰が利用者ごとの変更を判断し、ケア記録へ反映するかまで決めます。

在宅復帰が近い利用者は、家屋情報、家族の受入れ準備、福祉用具、ケアマネジャーとの調整が進行中です。災害や感染症で面談・訪問ができない場合、退所を延期するのか、遠隔で確認するのか、関係先への連絡を誰が担うのかを平時に整理します。

医療・薬・酸素などの継続条件

利用者ごとに、定時の服薬、処置、経管栄養、酸素、受診予定、状態変化時の連絡先を確認します。BCP本体へ詳細な個人情報を固定するのではなく、最新の利用者情報へ安全にアクセスする方法と、停電・通信障害時の代替記録を定めます。

薬については、施設在庫、個人処方、調剤薬局からの供給、冷所管理が必要な物を分けます。配送が止まった場合に優先して確認する利用者、処方医や薬局への連絡順、代替判断を行う職種を明確にします。医療的な変更をBCP担当者だけで決めず、医師・看護職など適切な専門職へつなぎます。

酸素や医療機器を使う利用者がいる場合は、機器、電源、予備、納入業者、搬入経路、移送時の条件を一覧にします。数量や持続時間を一般値で決めず、個別機器と利用状況に基づいて業者・医療職へ確認します。

感染症時はケア動線を組み替える

感染症BCPでは、発生区画、接触者、清潔・不潔の動線、職員配置、食事・リネン・廃棄物の流れを図面へ落とします。ゾーニングの名称だけを計画書へ書くのではなく、扉、トイレ、浴室、スタッフ動線、物品補充を現場で歩いて確認します。

職員が不足した場合は、資格・経験・夜勤対応・医療ケアの可否を含むスキル表を使います。応援職員へ渡す情報は、施設全体の長いマニュアルではなく、その勤務で担当する利用者、注意事項、連絡先、記録方法をまとめます。

入退所や面会を制限する場合も、家族や関係機関へ伝える内容、判断者、見直し条件を決めます。情報が部署ごとに異ならないよう、外部向けの更新履歴を一本化します。

自然災害時は施設内継続と移送を並行検討する

自然災害BCPでは、建物、ライフライン、周辺道路、職員参集、物資、地域の被害を確認します。施設内で継続できる業務と、外部支援や移送が必要になる条件を分けます。避難先の名称だけでなく、利用者情報、薬、医療機器、移動手段、受入先との連絡をひとまとまりにします。

通所や短期入所の利用者については、送迎中、到着前、利用中、帰宅困難時を分けます。家族宅へ戻すことが安全とは限らないため、道路、家族の在宅状況、住宅被害、医療ニーズを確認する手順を作ります。

老健BCPの訓練シナリオ

机上訓練では、次のような条件を一つ選び、判断と記録を確認します。

  • 看護職と介護職の出勤状況に偏りがある
  • 一部区画が使えず、食事とケアの動線を変更する
  • 薬やリネンの納入が遅れ、在庫確認が必要になる
  • 退所予定者の家族・ケアマネジャーと連絡が取れない
  • 通所利用者が施設内にいる間に交通が止まる
  • 医療機器を使用する利用者の移送を検討する

訓練後は「できた・できなかった」だけでなく、必要情報がどこにあったか、判断者へ届くまで何が止まったか、代替手段が現場で実行できたかを記録します。改善項目には担当と見直す資料を付けます。

減算と体制届の確認

BCP策定は2024年度介護報酬改定に伴い義務化され、未策定減算の経過措置は2025年3月31日で終了しました。2025年4月1日から、施設・居住系サービスは所定単位数の100分の3、その他のサービスは100分の1に相当する単位数が減算されます。適用除外やサービス区分、体制届の様式は指定権者の最新案内を確認してください。

計画を作るだけでなく、指定権者へ体制届等を「基準型」で届け出る確認が必要です。未届・不備は減算型として扱われるおそれがあります。研修・訓練の必要回数はサービス類型・運営基準で異なるため、具体回数を一般化せず自施設の基準を確認します。

厚生労働省のBCP作成支援資料・動画から、自然災害・感染症のガイドラインとひな形を確認できます。

仕上げの確認表

  • 入所生活と在宅復帰支援の優先順位が両方書かれていますか。
  • 利用者ごとの医療・薬・移動条件へ最新情報からアクセスできますか。
  • リハビリやケアを縮小する判断者と代替方法が明確ですか。
  • 入退所、短期入所、通所の途中で発生する状況を想定していますか。
  • 家族、医療機関、薬局、ケアマネジャーへの連絡を一本化していますか。
  • 訓練結果をBCP、利用者情報、設備・物資台帳へ戻していますか。
  • 体制届と研修・訓練記録を運営管理へつないでいますか。

トドケデ介護の完全ガイドで減算・体制届・運用の全体を確認できます。無料BCP減算リスク診断では現在の策定・届出・訓練状況を整理できます。トドケデ介護は、お客様ご自身がBCPを作成・運用するための支援ツールです。

この記事の執筆・監修は丸岡 峻です。元京都市消防局13年・現役防災士(日本防災士機構認定)・消防設備士・危険物取扱者。本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。