小規模多機能型居宅介護のBCPで難しいのは、同じ利用者が日によって通い、訪問、宿泊を使い分けることです。災害や感染症が起きた瞬間に、利用者が事業所、自宅、送迎車内のどこにいるかで初動が変わります。登録者名簿だけでは、現在地、家族の在宅状況、必要なケア、次の訪問予定を把握できません。

結論として、小規模多機能のBCPはサービス別の冊子を作るのではなく、利用者の所在を中心に通い・訪問・宿泊を切り替える判断表として作ります。平時の予定表、当日の変更、送迎状況、訪問記録、宿泊者情報を、緊急時にも確認できる形でつなぎます。

発生時点の利用者所在を確定する

初動では、事業所内の利用者、送迎中の利用者、自宅で訪問を待つ利用者、宿泊予定者、予定変更した利用者を分けます。予定表の情報だけでなく、当日のキャンセルや追加利用を反映した現在地を確認します。

想定例として、大雨で送迎を早めている途中に道路状況が悪化した場合、事業所へ戻る、利用者宅へ向かう、別の安全な場所で待機する判断が必要になります。運転職員だけへ判断を委ねず、車両位置、利用者の状態、道路情報、家族連絡を事業所側で受ける担当を決めます。

所在確認表には個人情報が含まれるため、誰でも見られる共有方法にはしません。通常システムが使えない場合の紙の控え、持出し、更新、回収、廃棄までを情報管理ルールに含めます。

通いを縮小すると訪問と宿泊へ負荷が移る

通いサービスを休止・縮小すると、自宅での食事、服薬、排泄、見守りを家族や訪問で補う必要が生じます。単純に「通いを中止」と決めるのではなく、利用者ごとに代替できるケアと、家族だけでは対応が難しいケアを分けます。

訪問へ切り替える場合は、職員数、移動時間、道路、車両、燃料、訪問先で使う物品を確認します。通常の訪問順ではなく、ケアを中断した場合の影響、独居、家族支援、医療ニーズ、住環境から優先順位を決めます。判断理由を記録し、状況が変われば見直します。

宿泊を増やす場合も、空間や寝具だけでは決められません。夜間の職員体制、服薬、食事、排泄、認知症ケア、家族連絡、感染対策を合わせて確認します。通常と異なる利用を受け入れる条件と、受入れを継続できない条件を管理者・現場職員で共有します。

送迎・訪問車両をBCP資源として管理する

車両台帳には、利用目的、鍵、給油、充電、車いす対応、非常用品、運転できる職員を記載します。車両が事業所にある前提ではなく、発生時にどの職員がどの利用者とどこにいるかを確認します。

送迎ルートは固定地図だけでなく、冠水、通行止め、倒木、渋滞などで使えない場合の連絡手順を決めます。代替ルートを無理に走るのではなく、出発を見合わせる条件、引き返す条件、家族へ迎えを依頼する条件を整理します。個別の安全判断は当日の行政・道路情報と現場状況を優先します。

訪問バッグや車載用品は、誰が補充し、使用期限や不足を確認するかを決めます。感染症時に清潔な物と使用後の物が混ざらない置場も車両ごとに確認します。

家族・地域・他事業所への連絡を分ける

家族への連絡では、安否、現在地、提供できるサービス、家族に依頼したいこと、次の更新時刻を分けます。職員ごとに説明が変わらないよう、決定事項と未確定事項を共有します。電話が集中した場合の発信担当と受電担当も決めます。

地域包括支援センター、居宅介護支援、医療機関、薬局、行政、他の介護事業所など、連絡先ごとに共有目的が異なります。応援依頼、受入相談、利用者情報、物資依頼を同じ連絡文に詰め込まず、担当と記録先を分けます。

感染症対応ではサービス間の交差を見える化する

一人の職員が通い、訪問、宿泊へ関わるため、感染症発生時には職員・利用者の接点を追える情報が必要です。勤務表だけでなく、送迎同乗、訪問、食事、入浴、宿泊区画などの接点を確認します。

事業所内では、利用者の滞在場所、職員動線、食事・洗濯・廃棄物の流れを図面へ示します。訪問では、個人防護具などの持出し、使用後の処理、車両内の区分を決めます。サービスを切り替える判断は、利用者のケア継続と感染拡大防止の両面から適切な専門職・行政案内を確認します。

訓練で試す切替シナリオ

  • 送迎車が事業所へ戻れない
  • 通いを縮小し、優先利用者へ訪問を組み直す
  • 宿泊予定者の家族が帰宅できない
  • 訪問担当者が不足し、別職員へ利用者情報を渡す
  • 通信障害で当日の利用変更をシステムから確認できない
  • 感染症により事業所内の一部区画が使えない

訓練では、利用者所在の確定、優先順位の決定、家族連絡、職員への指示、記録更新までを通します。単独サービスの手順が動いても、切替時に情報が渡らなければ小規模多機能の強みを生かせません。

減算・届出と公式資料

BCP策定は2024年度介護報酬改定に伴い義務化され、未策定減算の経過措置は2025年3月31日で終了しました。2025年4月1日から、施設・居住系サービスは所定単位数の100分の3、その他のサービスは100分の1に相当する単位数が減算されます。小規模多機能型居宅介護に適用する区分と届出様式は、指定権者の最新案内で確認してください。

減算を避けるには、BCP策定に加えて指定権者へ体制届等を「基準型」で届け出る確認が必要です。未届・不備は減算型として扱われるおそれがあります。研修・訓練の必要回数はサービス類型・運営基準で異なるため、自事業所に適用される基準を確認します。

厚生労働省のBCP作成支援資料・動画では、自然災害・感染症のガイドラインとひな形を確認できます。

完成前チェック

  • 当日の利用変更を含めた現在地を確認できますか。
  • 通い縮小時に訪問・宿泊へ移る負荷を計算していますか。
  • 利用者ごとの代替ケアと家族へ依頼できる範囲が明確ですか。
  • 送迎中の判断と事業所への連絡方法を決めていますか。
  • 夜間や通信障害時にも最新情報へアクセスできますか。
  • サービス切替の決定理由と家族連絡を記録できますか。
  • 訓練結果を予定表、車両、物資、連絡網へ反映していますか。

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この記事の執筆・監修は丸岡 峻です。元京都市消防局13年・現役防災士(日本防災士機構認定)・消防設備士・危険物取扱者。本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。